リズム、というものがある。
例を挙げるなら煙草。僕が禁煙できない理由は、煙草を吸わないとリズムが乱れる、或はとれなくなってしまうからだ。
たとえばレポートを書いている。いい考えが浮かぶ。煙草を吸う。着筆する。
ここで煙草を吸うというワンクッションがないと、どうにも落ち着かないのである。それが、リズムになってしまっているからだ。

トイレで用を足すときにもリズムがある。
トイレに入る。ベルトを解きチャックを降ろす。ペニスを露出させる。尿を放出する。
これが、トイレに入ってから用を足すまでのリズムである。
今日、喫茶店にて尿意を感じてトイレに駆け込んだときの話だ。
まず、トイレに入る。ベルトを解きチャックを降ろす。いつも通りである。
しかし煙草を吸った後だったので、口の中に違和感を感じ、唾を便器に向かって吐いた。
どうやらこれがいけなかったらしい。リズムを乱されてしまったのである。
ベルトを解きチャックを降ろしたあとは、ペニスを露出させるのが常である。しかしここで、「唾を便器に向かって吐く」という余計な行程が入ったものだから、身体の方がそれを、「ペニスを露出する」ことと履き違えてしまったらしく、出した。出したね。まだ外部に露出されていないペニスから尿道から尿を。
すぐに気付けばよかったのだけど、結構出してしまった。パンツは濡れ、隙間から滴った尿が、内股を伝い、ふくらはぎを経由して靴下に吸い込まれてゆく。
習慣とは人生を凌駕する怪物とは三島由紀夫の言か。なるほどあながち間違っていない。
そんなことを考えながら僕のあたまの中では、
「トイレのトラブル8000円　暮らーし安心クラーシアン」という、
例のCMソングがガンガンに鳴り響いており、さすがにこの手の水のトラブルは、クラシアンも対
応し兼ねるだろうと、濡れたパンツのまま、いそいそと外に出たのであった。

今季一番と言われるほどの寒空は、濡れたパンツにまったく、血も涙も容赦もない。